紙媒体の広告需要は年々減少傾向ですが、WEB広告需要は前年比113%の勢いで伸びているそうです。
あくまで広告需要のみの話で、パッケージ・シール等を含む紙媒体全体が落ち込んでいるとは一概に言えませんが、チラシやパンフレット等を主力商品としている印刷会社にとっては、無視できない状況です。
昨今ではWEBやYouTube動画制作を請け負う印刷会社も増えているので、デザイナーとしてもWEB制作のスキルを磨く必要があります。そこでWEB制作初心者のDTPデザイナーが避けるべき「落とし穴」をまとめてみました。
目次
WEBページは「見る」モノではなく「使う」モノ
WEBページは広告ではない
10数年前ぐらいまではWEBページも広告的要素が強かったのではないでしょうか。
例えばホームページでキャンペーンなどの情報を得たユーザーが、実店舗まで足を運び購買行動をする。というAIDMA的な流れも多かったと思われます。
チラシやパンフレットと同じようにWEB上で「見る」という行動が主流で、購買行動自体は別の場所で行われていました。しかし、今ではあらゆる事がWEB上で可能になっています。
ユーザーが「見る」事のみを想定するのではなく、「使う」事も視野に入れてWEBページを制作しなければいけないのですが、そこがDTPデザイナーにとっては大きな落とし穴になります。
WEBページをツールとして考える
基本的にチラシ等の紙媒体広告は、「見て」「記憶」してもらい「集客」に繋げる事を想定していると思います。少なからずチラシを見て電話やメールをしてもらう事は想定していても、チラシ上で集客や購買行動を完結させる事は不可能です。しかしWEBページはどうでしょうか。
ECサイト・通販サイト・WEB予約等、あらゆる購買行動があらゆるWEBサイト上で完結されています。そこには「見る」という行動以上に「使う」という行動が多く含まれています。
広告制作に慣れていればいるほど、「見る」という行動には敏感でも「使う」という行動には鈍感になりがちだと感じますので、一旦「広告」という概念はスミに置いて、WEBページは「使うためのツール」であると考えてみてください。そうする事で「ユーザエクスペリエンス」「ユーザビリティ」「アクセシビリティ」といったWEBの考え方も理解しやすくなると思います。
印刷業界にありがちな「とりあえず」はNG
「とりあえずラフ作って」
「とりあえず先行しておいて」
「とりあえず…」
誰しも仕事上で必ず聞いたことがある「とりあえず」という言葉。とても便利で使い勝手が良い言葉ですが、WEB制作で使うのはとても危険です。
結局「とりあえず」が通じるのは、後から修正が可能である事が前提だと思います。
修正不可能な状況だとしたら「とりあえず」等という曖昧な言葉は使いません。
しかし、これが二つ目の落とし穴になります。
チラシ制作と比べると、WEB制作は制作段階に入る前に決定しておくべき事が多々あります。そもそも1ページで完了するチラシと違って、大抵の場合は数ページある事が前提となるので、決定しておくべき事も多岐に渡ります。
そんな状況でチラシを作るノリで「とりあえず」デザインを決めて「とりあえず」制作を進めると、後々大変な事になります。
「この情報はこっちのページに移動して。」
「やっぱりフォームが必要。」
「やっぱりスマホ対応したい。」
「やっぱり自分達で更新できるようにしたい。」
「やっぱりサイドメニューが必要…ホントもう大変です。」
事前にクライアントの要件をしっかりまとめて、その要件を満たす条件を洗い出し、目的に合ったデザインと機能を実装する。という事を踏まえ「とりあえず」という言葉を絶対に使わない事がリスク回避につながります。
Webディレクションの新・標準ルール 現場の効率をアップする最新ワークフローとマネジメント
最近のWEB制作の概要を理解するのにオススメの一冊です。WEBサイトを制作する前の企画段階から、サイトが完成した後の運営の事について、非常に有益な情報が網羅されています。
内容的に営業さんにも読んでもらいたい本ですね。
おそらくは営業さんからの「とりあえず」要求が多いとは思いますので、状況によっては、リスクを共有し「とりあえず」の危険性を理解してもらう事から始める必要があるかもしれません。
ユーザーの閲覧環境・閲覧状況を考える
チラシは基本的に印刷されたら最後、ゴミ箱に捨てられるまでサイズが変わりません。クーポン等の特別な理由がない限り切り取ることもありませんし、たとえ切り取ったとしても配置が変わったり色が変わることはあり得ません。
そこが三つ目の落とし穴です。
PCサイトとスマホサイトを同時に閲覧することはあまりないので、それぞれのサイトでデザインや情報量が違っていることに気づきにくいと思いますが、閲覧するデバイスが変われば画面サイズが変わるので、それに合わせてデザインやレイアウトを変更しなければいけません。
スマホ利用人口の増加に伴い「モバイルファースト」が叫ばれている昨今、スマホサイトをメインに考えたWEBデザインが主流になっています。以前はPCサイトをベースに制作していたものが、あらゆる部分でスマホを前提にデザインしなければなりません。
WEBページは、ユーザーの閲覧環境・閲覧状況を理解した上でデザインしなければいけないのですが、紙媒体ではユーザーサイドの変化は基本的に考慮しません。その部分の差もDTPデザイナーにとっては大きな落とし穴になると思います。
紙媒体の延長で考えない事が重要
自身もいくつかのサイト制作に携わってみて思ったのは、紙媒体的な考え方や作業フローは忘れてしまって、全くのゼロからWEB制作を覚えるつもりになって書籍を読んだりデザインを考えた方がスムーズだという事でした。
そうしないとデザインとコーディングは別物という事でさえ、気がつかない可能性もあります。
当然イラストレーターやフォトショップ等の各種アプリケーション、色彩感覚やイラスト制作のスキルはそのまま役に立ちますので、DTPデザイナーとしての経験が活かせます。そういったスキル的な事ではなく、根本的な作業の進め方や、考え方を改める必要があると思います。
私を含めたDTPデザイナーにとってWEB制作の道のりは長く険しいですが、なるべく落とし穴にハマらないように精進していきましょう。